わたくしはけふの講演会に出るつもりでゐましたが、腹を壊してゐる為に出られません。元来講演と云ふものは肉体労働に近いものですから、腹に力のない時には出来ないのです。甚だ尾籠(びろう)なお話ですが、第一下痢(げり)をする時には何だか鮫(さめ)の卵か何かを生み落してゐるやうに感ずるのです。それだけでももうがつかりします。おまけに胃袋まで鯨(くぢら)のやうに時々潮を吐(は)き出すのです。そこで友人佐佐木茂索君にこの文章を読んで貰ふことにしました。勿論佐佐木君は読むだけではなく、佐佐木君自身の講演もされることと信じてゐます。若し万一されなかつたとすれば、どうか足を踏み鳴らして、総立ちになつてお騒ぎ下さい。右とりあへず御挨拶まで。 (大正十五年六月)